ある女の子が不登校になりかけたわけ


ある女の子のお母さんから
「うちの子が学校に行きたがらなくなってしまったのだけど」
というご相談を受けたことがありました。


・・・ただこれからお話する事例は
架空の女の子のお話です。

カウンセラーとして本人の了承を得ない事例
についてお話することはできませんし

了承を得たとしても個人が特定されないよう
事例に若干の変更を加えるのが通常です。


なので以下の事例に関しては
私がお会いしたクライアントを
いくつか組み合わせて作り

さらに変更を加えているという点
で実際の事例とは異なります。

ただ今回お伝えしたいことの
本質が伝わるような工夫が
されていることをご了承ください。



それで、その女の子ですが・・・


いじめられているわけでもなく
勉強でのつまづきもなく
友人関係に問題があるわけでもない。


「学校に行きたくない」とはっきり言うわけでもなく
朝起きて「お腹が痛い」と言うわけでもない。


でもなんだかんだ理由をつけて学校を休みたがる。


そして登校した後はよく体育の授業の前に
保健室に行くことが多くなり

それがだんだん他の授業でも
保健室に行くことが増えてきた。


それを心配された養護の先生が
「何か困っていることがあるの?」
と尋ねてみたけど

本人からは「何もない」という
返事しか返ってこない。


それでも保健室利用が増えていることは事実なので
お母さんと相談され、私のところを紹介されました。


お母さんとお会いし
生育歴や家族環境、学習面についてお尋ねしても
やはり特に何も気がかりなことは思い当たらない。

つまり特にこれといって登校を渋る理由がなさそうに思える。


そしてある日、その子が在籍している学校へ
教育委員会と一緒に伺ってみたところ・・・



「こ・・・これは!?」


見た目も可愛らしく
ノートを取る字もきれいで
周りの友だちとの関係も良好そうに見える。


授業中の態度も申し分なく
授業内容も理解できている

・・・・・なのに。


・・・・・・・・え、めっちゃ不器用!!
(言いかたごめん!)


一見不器用そうに見えないけど
そりゃあなた、日々の生活が大変だよね!!

という状況だったのです。


例えば大抵の女の子なら
机の中や机の上はすっきり片づけられており
ノートを取るにしても作業をするにしても
すんなりできるようになっているものです。


でも彼女の机の中は
「あれ、どうしたの?」というような乱雑ぶり。


机の上も、今その定規はいらないんじゃない? 
そこに教科書あったら落ちるんじゃない? 

といった混乱ぶり。


そしてなにより
たまたま授業でのり付けをしていたのですが
のりが! のりを付ける場所が! 
大量にのりがくっついているその指が!
ああ、た、大変そう!


教室での様子を見学したあと
担任の先生にお話を伺ったところ
案の定というかなんというか
「体育は苦手で、とくに球技が・・・」とのこと。

ボールをうまく扱えず、いつもとても苦労しているとのことでした。



彼女のこのような状態を発達性協調運動障害と言います。

障害なんて名前がついていると
困惑してしまいそうですが

私はこれを「極度の不器用」と受け止めています。


勉強もできる、友だち関係も悪くない
学校で嫌なことは特にない

でも彼女が学校に行きたがらないのは
この極度の不器用さが原因でした。


なぜならただの不器用と違い
発達性協調運動障害と思われるほどの
「極度の不器用」だと
やはり学校生活や日常生活に支障がでるからです。


この女の子のように
普通にできることがたくさんある子は特に
周りから「なんで机の中が汚いの?」
「なんでいつも物を落としちゃうの?」
「球技が苦手な運動音痴な子」
という目で見られてしまいます。


さらに自分ではうまくできない理由が分からず
「頑張っているのにうまくできないダメな自分」
というように自己肯定感が下がってしまいます。


その結果
「ダメな自分を意識せざるを得ない場所=学校」
に行き渋るという心理が働くことになります。


彼女の行動観察をしたあとお母さんに
「彼女、部屋が片づけられないことありますか?」
と尋ねたところ、あっさり「ええ、そうです」と。


彼女のお母さんは
彼女の不器用さをきちんと認識されていた。


そして尋ねると

「靴ひもは結べません。
エプロンのひもを後ろで結ぶこともできません。
なわとびも苦手だし、定規で線を引くのも苦手。
カバンのなかはいつもぐちゃぐちゃだし
だらしなくって困っちゃうんです」

と出てくるわ出てくるわ
不器用さのエピソードがてんこ盛り。

でもまさか、そのことと行き渋りが関係している
とは思っていなかった。


幸い、この子の場合は保護者の方と
学校の先生方がすんなり理解してくださり
すぐにこの子に必要なサポートをしていただけることになりました。


具体的には、お母さんはこの子が
自分の部屋を片付けられないのは
「だらしないから」と思っていましたが

それが性格の問題ではなく
うまく持ち物を整理し
上手に収納ができないだけだと理解され

一緒に片づけを手伝ったり
分類して収納できるグッズを用意したり
カバンに入れる教科書とノートも
ファイルごとに収めるという手立てを工夫されました。


学校の先生も作業系の授業などでは
さりげなくその子のそばに行ったり
近くで見本を見せてあげたり
体育でのサポートもしてくださいました。


それらをすべて、本当にさりげなく

彼女が困っているところにだけ
サポートの手を差し伸べ
彼女ができているところは十分に評価する

という対応をしてくださったおかげで
彼女の行き渋りはなくなり
学校生活を楽しく送ることができるようになりました。



このように大切なことは
子どもの困っている原因が分かること。


そして困っている原因が分かるだけでなく
その困難さを周囲が理解し
適切なサポートが得られること
だと思います。


特に発達性協調運動障害のような状態は
本人の努力不足や性格のだらしなさ
要領の悪い子と思われてしまいがちなので

「決してあなたのせいではない」

と周りが分かってあげることが大切だと感じています。